三つの袋

えー,本日はまことにお日柄も宜しく,まさにお二人の門出に相応しい絶好のお天気となりました.両家のみなさまにはたいへ喜ばしいことと,このような高いところからではありますが,お喜び申し上げます.本日はまことにおめでとうございます.

えー,私,新郎の源五郎君とは高校,大学と同窓としていろいろと遊んだ仲でございます.いわゆる腐れ縁というやつでありまして,その縁からか,本日はなにか話をしてくれ,と頼まれた次第でして,えー,僭越ながらではありますが,ひとつ,ご挨拶を申し上げたいと存じます.

えー,こういうところで何か気の利いた話の一つでもできれば申し分ないのですけれども,あいにくとそういうものも持ち合わせておりませんで,ここはひとつ,ワタクシの趣味のほうから何か結婚に関わるような話でもしてみようかと思います.

えー,ワタクシの趣味ともうしますのは,いわゆる古い時代の土地の風習などを調べることでして,そういうこともありまして古文書に触れる機会も多くございます.先日,そうして集めた古文書を整理しておりますと,200年前の結婚式におきましてスピーチに使われた原稿が出てまいりました.大変破損がひどく,あちこち読めない箇所がございましたが,本日はひとつ,それを披露したいと思います.

えー,題しまして「三つの袋」というものです.なんでも,結婚には「カンニンブクロ・ゲッキュウブクロ・オフクロ」の三つが大切であるという旨の話のようです.ただ,今となっては,そのそれぞれが何を意味しているのかは分からない上に,先ほど申しましたように破損がひどうございますので,適宜意味を補完しながら,そのそれぞれについてお話をしていきたいと思います.

まずカンニンブクロです.カンニン,とは耳慣れない言葉ですが,これはカンニングの最後のGの音が欠落したものです.このカンニングとは,通常見てはいけないものをチラリと見る,いわばズルのことであるといわれています.すなわち,結婚生活におきましては,ツマがオットのスーツのポケットの中や財布の中をチラリと見て,説明の難しいレシートをチェックしたり,あるいはオットがツマ名義の通帳の数字がべらぼうなペースで増えているのをチラリと見たりすることです.つまり,カンニンブクロとは,そうして見つけた危険物を入れておく,いわば証拠品入れなわけですね.これがぶちまけられると,浮気の証拠やらヘソクリの証拠やらがわんさか出てきて,エライことになります.これを当時の人は「カンニンブクロのオが切れた」と言いまして,そうなることを非常に恐れたとされています.いやー,しかし結婚式のスピーチでそのような袋を奨励するというのですから,当時の結婚というのが,いかにドライで殺伐としたものであったか,がよくわかりますね.

次にゲッキュウブクロ,これも解説が必要ですね.これはゲッキュウというのが今ひとつ謎なのですが,「オットのゲッキュウをツマが押さえることによってツマの発言力,支配力が飛躍的に向上した」という表現がヒントになるものと思われます.いいですか,「オットのゲッキュウをツマが押さえることによってツマの発言力,支配力が飛躍的に向上する」.言い換えれば,「男の○○袋を女がつかむと男はヘナヘナになる」そんな袋があるでしょうか.わたしにはどうもわからないです.「男にある袋で,そこを女がわしづかみにしたりすると男は力が抜けてヘナヘナになる」.なんなんですかねぇ.すごく大事なものであるようには思いますけれども.ぜひみなさん考えてみてください.

そして,最後はオフクロです.えー,このオフクロという言葉は,コブクロという言葉から変化したものであるというのが定説になっております.で,このコブクロ,ここでいうコブクロなのですが,ワタクシ思いますにこれは,当時人気を集めた小渕と黒田という二人組みの歌ウタイなのではないか,とこう考えております.学会では認められていないのですけれども,彼らの代表曲「エール」は,旅立ちを迎える二人を応援する曲として,当時結婚式で多く歌われていたということが何よりの証拠ではないでしょうか.

えー,と,つらつらとここまでお話してきましたが,実はワタクシ,話をまとめるのも今ひとつニガテなものですから,ま,当時にならって,この曲を二人に贈ることでまとめに代えさせていただきたいと思います.

では,聞いてください,コブクロの「エール」.

(演奏)

元ネタ→[大西科学]