小便器と陰毛

男性の小便器には2タイプある。 すなわち床まで便器なものと,股上の高さあたりから便器なものだ。

女性の方はおそらく存じ上げていないだろうが,後者のタイプの便器の手前側の土手,すなわち小便者にもっとも近しい便器部分には,清掃直後でもない限り,始終陰毛が数本付着している

ソレは日本全国津々浦々どこの男子便所においても観察され,また付着しているソレの縮れの強さがマチマチであることから,これらが「とても陰毛の抜けやすい人」の単独犯行ではないことは容易に推察できる。

そう,世の男性は小便をするたびに期待値1くらいの確率で「小便をここでいたしました」という痕跡を残すのだ.陰毛というのはとてもよく抜けるのである。

これは不思議なことだ。 ワキ毛やマユ毛,ヒゲといった他の毛がそれほどボロボロ抜けるという話を聞かない以上,陰毛だけがああも容易に--しかも便器に付着するようなタイミングで--抜けることに,我々はたやすく納得するべきでない。

なぜ陰毛だけがああも小便の時に抜け,便器に多種多様な縮れ毛が付着する結果となるのだろうか

この問題を考察してみるにあたって,ワタクシは,先ほどの記述が実は非常に真実に近いであろうことに気づいた。 そう,オノコどもは小便の際,自らの陰毛を落とすことで「小便をここでいたしました」という痕跡を残しているのではなかろうか。

これは,クマがオノレの背中を木々にこすりつけたり,犬が小水をちびりちびりと諸処にふりかけたりすることで自らのテリトリィを主張する,マーキングと呼ばれる行為と同じである。

ここまで考えて初めて合点がいった。 なるほど陰毛はマーキングの所為なのか。

つまり便器に付着まします他者のテリトリィの証左たる他者の陰毛は,この便器が他者のテリトリィであることを雄弁に物語るアイテムなわけだ。 これはおちつかない。 いま小便をしている便器はワタクシのプライベートエリアとして認識したいものだ。

ワタクシの裸の銃と対面しているこの便器が他人のものだと?? 得心いかぬ!

ここに小便者の深層自我と便器の他者の陰毛とは排他関係を成すことになる。 すなわち深層意識は,自分が小便する便器に他者の陰毛の存在を許さず,「汝,陰毛ここに失せるべし」と高らかに主張するのである。

かくして今日も世の男性は毎日の小便のたびに,便器の土手にべばりついている他人の陰毛を自らのジェット水流で押し流すことになるのである。 もちろん,最後にハラリと自らの陰毛を落とし,マーキング行為を完結することを忘れたりはしない。
#そう考えると便器の陰毛がせいぜい2〜3本の均衡を崩していないことにも合点がいく。

なるほど,技術文明によって野性を失ったかに見えた人間はこういうかたちで,動物であったときの記憶を現出させているのか。

それにしてもこの陰毛はなかなか難しい位置にへばりついておる。 ワタクシの水流で押し流そうとすると...角度が....



...あっ!しまった!......足にかかった(T-T)