朝立ち

朝立ちという男の生理現象に関して世間に広まってる常識に,ひとつ間違いがある。 それは,朝立ちの原因を膀胱に求める膀胱犯人説である。

いわく,尿が膀胱にたまって,それが血管を圧迫するために海綿体に血液が溜まってしまう,あるいはそれが前立腺を刺激して,そのために海綿体に血液が溜まってしまう..これらは実は間違いだ。 男性諸君が先刻ご承知のように,「立って立てない」という状況は,

  • 昼下がりに机に突っ伏して午睡を堪能した
  • 電車で不覚にも眠ってしまった
  • 会議中にうとうとしちゃった

などのように,比較的浅い短時間の眠りであっても生じる。 こんな短時間に膀胱が尿でパツンパツンになるのであれば,それほど頻繁に小便に行くわけでもない多くの人は,覚醒している普段から,朝夜無関係にのべつヒマなしに朝立ちまくりだろう。もちろん,そんなことはない。

さらに,どちらかというと,普段のベッドでの深い眠りよりも,そうした眠りの場合にこそ朝立ちギンギンになりがちである,ということも考えると,容易に朝立ちの犯人が膀胱でないという結論に至る。

実は朝立ちの原因は,レム睡眠にある。 浅い眠りのときは,どういうわけだか勃起中枢がスパークして,脳から勃起指令が出る。 同時にテストステロンなどのホルモンも分泌される。 すなわち朝立ちとは,直前までレム睡眠をむさぼっていたことを意味する。

レム睡眠は別名「夢を見る睡眠」といわれる。 この夢が現実世界の不満・ストレスを解消するための,いわば欲求の充足手段であることを考えに入れれば,勃起のメカニズムも推して知るべし,だ。

なお,朝立ちは,いわばレム睡眠がティムポを勃起させているわけだから,どれだけギンギンだった朝立ちも,覚醒とともに穏やかになるのが普通だ。 調べていないが,眠りからの覚醒が鮮やかな人は,朝立ちを確認することが少ないかもしれない。

さて,こうして朝立ちの正体が分かったのだが,だからどうなの?というのが正直なところだ。

この例は,知識が人間の行動にほとんど影響を及ぼさない好例かもしれない。 間違った知識をもっていても,正しい知識をもっていても,それは酒飲み話くらいでしか役に立たない。 それでも,酒飲み話として受け入れられる程度に,人々はそういう知識が好きなのだろう。 また別の酒飲み話で役に立つかもしれないという思惑で,実際にはロクに役に立たない朝立ちの話を聞く人。 まさに役に立たない知識の閉じた螺旋といえよう。